心房中隔欠損症(ASD)は中隔とよばれる心臓の左心房と右心房を隔てる壁に欠損孔と呼ばれる穴が空く先天的な心臓疾患で、新生児だけでなく成人になって見つかることもあります。小さな欠損孔でははっきりとした症状や徴候がなく、健康診断の際に偶然に見つかることがあります。成人では、ある一定の年齢になると症状や徴候が現れることがあり、幼少時に高頻度で患った肺の感染症、心肥大、息切れ、運動後の倦怠感、動悸があげられます。この状態を放置すると、動悸は不整脈や完治には手遅れとなる心筋細胞などの壊疽、心不全のような重大な症状を誘発します。
小さな徴候に気づいて、定期的に心臓の検査を受けることが一番の予防になりますが、ASDが見つかったら、早期回復が可能で体に負担の少ないカテーテル閉鎖術で治療することが可能です。
心房中隔欠損症(ASD)とは
ASDは中隔が正常に形成されない場合に見られる先天的な心疾患です。左心房から送り出される新鮮な酸素を含んだ血液が中隔の穴を通じて右心房に流れ込み、酸素が少なくなった血液と混ざるために、必要以上の肺に血液が送られてしまいます。中隔の穴が大きい場合はより多量の血液が肺に送られ、心臓の右側(右心房や右心室)に必要以上の負担がかかり、この状態が長期間続くと心臓の肥大や機能低下がおこります。また、肺動脈の圧が上昇する肺高血圧症も発症します。
小児期での小さな穴は症状や徴候が見られず、成人後、定期健診でたまたま見つかるケースが多くあります。心臓の専門医が見つける一般的な徴候は聴診器を介して聞こえるヒューヒューという心雑音です。息切れ、体を動かした後の疲労、動悸などもおもな症状ですが、脳卒中関連の症状が現れることもあります。ASDはいくつかのタイプに分類され、心房を隔てている中隔の壁の真ん中に穴が空く二次孔型心房中隔欠損症が最も多く、75%の割合で見られます。
心房中隔欠損症の診断方法
心房中隔欠損症は下記の検査によって診断されます。
- 聴診器による心音の確認
- 心臓超音波検査(心エコー検査):超音波を心臓に当てて跳ね返ってきた反射波をリアルタイムで画像化することで心房の機能や動き、心臓内の血流を観察することが可能で、2つのタイプの検査があります。
1: 経胸壁心エコー検査:胸や腹部に超音波プローブ(超音波を発生させ、跳ね返ってきた超音波を探知するセンサー)あるいは超音波トランスデューサーを当てて心臓をいろいろな角度から観察します。この検査は特別な準備が必要ありませんが、心肥大や胸壁の構造に異常がある方には適した検査ではありません。
2: 経食道新エコー検査:超音波トランスデューサーを先端につけた特殊な超音波プローブを気管と心臓の裏にある食道に通して心臓の画像を見ることで、より正確な診断を可能にします。
二次孔型心房中隔欠損症の治療
心房中隔の小さな穴は症状がなければ治療の必要はなく、かなり稀なケースですが自然に塞がることもあります。しかし、ほとんどのケースは最終的には治療が必要になります。中隔の穴が1㎝(中程度)から3㎝(重度)の場合は、早急にカテーテルによる穴を塞ぐ治療が必要です。
カテーテルを使用した中隔の穴の閉鎖は、循環器専門医が鼠蹊部の血管の中にカテーテルを挿入し、造影剤を使用してリアルタイムで画像を見ながら心臓へ到達させ、穴を塞ぐためのメッシュ構造の閉塞栓を留置します。閉塞栓の素材は中隔の穴の特徴やサイズによって違いがあり、中隔周辺の新しい組織が閉塞栓を取り囲み、3〜6ヶ月で穴が塞がります。開胸手術と違ってカテーテルを使用した治療は痛みや合併症のリスクが少なく、傷跡も小さく、短期間で回復するという利点があります。治療後は1、3、6、12ヶ月の定期的な経過観察が必要で、主治医から処方される薬を規則正しく服用しなければなりません。
カテーテルを用いた中隔閉鎖術で最善の治療効果を得るためには、最新の技術を持つ経験豊かな循環器専門医と十分な設備を有するカテーテル室が不可欠です。また、中隔の穴を塞ぐ機器を使用した治療は高い完治率と合併症のリスクを大きく減らすことができます。
しかし、各患者の中隔の穴のサイズ、場所、形状により治療方法は異なり、36㎜以上の大きな穴や5㎜以下の複数の穴がある場合は、心臓弁の機能障害のなどの合併症を引き起こすリスクが高いため開胸手術が治療の選択肢として考えられます。
参照
Dr. Kriengkrai Hengrussamee
バンコク心臓病院院長