大動脈弁狭窄症の低侵襲性治療:経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)

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大動脈弁狭窄症の低侵襲性治療:経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)

大動脈弁狭窄症は変性心臓弁膜疾患の一つで、大動脈弁閉鎖不全症やリウマチ性心疾患を除いては最も患者数が多く、深刻な心臓弁疾患のひとつです。最近では変性心臓弁膜症の症例数は増え続け、特に加齢に伴う弁の変性により高齢者での発症が報告されています。また、高血圧や糖尿病、高脂血症とともに喫煙などの生活習慣が心臓弁の機能を悪化させる危険因子として考えられています。

 

変性心臓弁膜症

心臓弁の変性は脂質の沈着や石灰化した結節の形成によって起こります。弁の石灰化はカルシウムの蓄積、先端部の硬化により大動脈弁の狭窄を引き起こします。また、弁の柔軟性が失われ、硬化した大動脈弁の開閉機能に障害がみられるようになります。さらにカルシウムの蓄積によりできた結節が弁の周辺に形成されるとギザギザになった弁の開閉が不完全となり、心臓に十分な血液の供給が出来なくなります。大動脈弁を経由する血流が減少、阻害されると血管壁が厚くなった状態で全身に血液が循環され、その結果、心臓には大きな負担がかかり、心筋の機能が低下します。この状態が長く続くと、生命の危機に関わる急性心不全などを発症します。

 

心臓弁膜症の一つ、大動脈弁狭窄症は重篤な疾患です。大動脈弁は左心室と心臓から全身に血液を運ぶ大動脈の間に位置し、血流を一定の方向に制御しています。大動脈弁が閉じることで左心室には酸素を豊富に含んだ血液がキープされ、弁が開くと新鮮な血液が全身に供給されます。大動脈弁狭窄症では弁が狭くなっているため、左心室には全身に十分な血液を送るために必要以上の負荷がかかり、左心室肥大などの原因となります。さらに心不全やその他の心疾患を引き起こすリスクも増大させます。大動脈弁の異常は高齢者の男女に共通してみられ、80歳以上では3%に発症のリスクがあるといわれています。また、統計では女性の発症リスクが40%といわれる一方で男性は60%と高くなっています。 

 

変性心臓弁膜症の兆候と症状

弁の閉鎖不全や狭窄を含む心臓弁の異常には、次のような兆候がみられます。

  • 疲労(特に運動など身体を動かしている時)
  • めまい
  • 週に2-3回以上の頻度で起こる激しい胸の痛みや圧迫感

 

tavi

 

変性心臓弁膜症の治療

変性心臓弁膜症は弁の狭窄が原因のため薬で治療することが出来ず、狭窄により正常な開閉が出来なくなった弁を取り替えなければいけません。

従来の治療法は開胸手術で古い弁を取り除き、生体弁や機械弁のような人工弁に取り替える治療ですが、人工弁については賛否両論があります。

現在の機械弁は耐久性に優れていますが、血液の循環を良くするための薬を一生飲み続けなければいけません。一方、生体弁は薬を飲む必要はありませんが、弁の耐久性が機械弁に比べてかなり短いため、人工弁交換の手術の頻度が高くなります。

以前は人工弁のタイプに関わらず心臓弁の治療には開胸手術が必須でしたが、近年では医療技術の進歩により、開胸手術をすることなく弁の治療が可能な低侵襲性の治療法が主流になりつつあります。手術による弁置換で合併症を併発するリスクが高い患者に有効な治療法と考えられています。この治療はおもに弁置換手術により合併症を併発するリスクが高い高齢者や肺や腎臓に疾患を持つ患者に有効と考えられています。

 

経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI

1985年、フランスのCharles Nicolle大学病院の循環器医、Alain Cribier教授により、開胸せずにカテーテルを使って経皮を使用した人工弁を装着する治療 (TAVI)が世界で初めて行われました。

TAVIは開胸手術のように術中に人工心肺を使用する必要がなく、切開範囲も小さいため出血量も少なく、麻酔の副作用も軽減されるので体への負担が少ない治療法です。また、入院期間も通常は2−3日と開胸手術と比べると1週間ちかく短く、回復も早くことから大動脈弁狭窄のような心臓弁に障害を持つ患者に最適な治療法です。

 

経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)の方法

この低侵襲性の治療は通常、鼠径部に小さな切開をして行います。

生体弁は直径8−10mmのカテーテル (薄くて柔軟な管)の拡張可能なバルーンに取り付けられ、鼠径部から挿入したカテーテルが大動脈に到達するとバルーンが留置されます。

その後、ナビゲーションシステムにより左心室と大動脈を隔てる大動脈弁に到達した人工弁が留置され、バルーンが正確な位置に人工弁を固定すると元の弁に変わり機能し始めます。バルーンと人工弁を留置する位置により鼠径部、胸部の側面または前面からとアプローチが異なります。

現在、TAVIは大動脈弁狭窄の患者に限らず、手術による合併症のリスクが高い患者にも効果的な治療として考えられています。

 

動脈への一般的なアプローチは鼠径部、肩、腕、手首ですが、多くのケースで動脈が太く、カテーテルを入れやすいという理由で鼠径部にある大腿動脈が選択されます。しかし、大腿動脈が細い場合は脚への血液循環が減少してしまうため、鼠径部からのアプローチが難しくなります。その場合は他の部位の動脈を利用して大動脈にアプローチします。

TAVIでは細菌感染、急性心筋梗塞、血栓や血液凝固、頻脈 (心臓の速い鼓動) のような心拍に異常がある患者、脳梗塞などで血液循環を良くする薬を服用している患者、冠動脈に障害がある患者は注意をしなければいけません。

TAVIの治療は約2時間で、治療後、通常の日常生活に戻るには約3ヶ月が必要になります。その間は抗血液凝固剤を服用し、運動は控えなければいけません。

 

Dr. Rapin Kukreja

循環器医

バンコク心臓病院循環器科医長


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バンコク心臓病院

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